小さな図書館のものがたり

旧津幡町立図書館の2005年以前の記録です

「センス・オブ・ワンダーの図書館」と呼ばれていた旧津幡町立図書館。2001-2005年4月30日までの4年間、そこから発信していた日々の記録「ひと言・人・こと」を別サイトで再現。そこでは言い足りなかった記憶の記録が「小さな図書館のものがたり」です。経緯は初回記事にあります。

『おこりじぞう』の涙

104歳で亡くなられたまどみちおさんの『百歳日記』(NHK出版)に
《虹》のエッセイがあります。

虹の色彩が大好きなまどさん、病室の窓からは大きな虹は見えないけれど、
自分のまつげのところにいつも虹があるとおっしゃる。
涙が出さえすれば、まつげのところに小さな虹が出るのだと。

「…涙でなくても、松の葉っぱからしずくが落ちようとしているときにも、
朝露なんかにも、虹が見えます。ふつうの光と思っておっても、
角度を変えたらみんな虹に見えるんですよ。
朝焼けも夕焼けも、あれは虹の色です。虹はいつも目の前にあるのだけれど、
そのことに関心をもたないで何かをしているときには見えません。
ふっとものを考えたり、寂しいな、
どうしようかなと思ったりしているときには虹が見えるわけです。
それは、虹を見たいという気持ちがあるからですね。
ちょうど、誰かに会いたいなと思ったら、
その人の顔が見えてくるようなものです。虹は本当に素晴らしい。…」

そして、
「世の中はいろいろ大変人間だけが生きているんじゃないですからね。
全ての生き物が生きているんですから、いのちの全部に感謝しながら
暮らしていくことで、自分もほかの人も幸せになるんじゃないかと思います。」

* * * * * *  

一瞬の晴れ間と共に現れた大きな虹はまもなく消えてしまいましたが、
私も「ふっと何か考えたり…」していたかな~~~そうかもしれません。
相互貸借のリクエスト本を受け取るのと、ある本を急いで借りようと
図書館へ車を走らせて、、、

『おこりじぞう』(山口勇子・原作/沼田曜一・語り/四国五郎・絵)。
録画した真夜中の番組《ヒロシマで出会ったふたり~木内みどりと四国五郎》で
木内みどりさんが朗読した絵本でした。

それは昨年のこと。四国さん兄弟の追悼展《時を超えた兄弟の対話》の
ナレーションを担当し、その音声収録の直後、朗読をやり終えた11月18日の夜、
木内さんは広島のホテルで急逝されのでした。

「おかしいことはおかしいと声をあげ続け…「戦争はだめだ」というその一点で
絵を描き続けていく見事さを自分は知ったんだから、その人の前で恥ずかしい
生き方はしたくない」
「たくさんの人が広島の原爆を体、心の記憶に持っている。
何の記憶も体験もしていない私がやれることではない。自分が試される。
今まで何を見て考えてきたのか、何を感じてきたのか覗かれてしまう。
そういう怖さがあってある意味ありがたい仕事。」

そして、朗読は木内さんのライフワークとなった。

《息が止まりそうになりました。鼻がツンツンしてきて震えだし、
私は声をあげて泣きました。心を鷲掴みされたっていう形容がぴったりでした。》
絵本『おこりじぞう』に出逢った木内さんが、その絵本を紹介してくれた友人に
送ったメールです。

その絵本も、原作の物語も、図書館にあることを知って、早く会いたくて、
嬉しくて、急いだ日の《大きな虹》でした。

旧津幡町立図書館の記録「ひと言・人・こと」はこちらです。