「このたびは、左記の資料をご寄贈いただき、誠に
ありがとうございました。厚くお礼申し上げます。
ご寄贈いただきました資料は、当館の蔵書として…」
館長名を記し、図書館印を押した型通りの寄贈お礼の文書。
平成10年12月4日、80円切手を貼って、表書きも差出人も私の筆。
図書館から送ったこの文書が、
今は、私の手元で眠っています。
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23年前のできごとでした。
『山の向こうから鬼が来る 荒木一宏遺稿集』
(H10.10.31発行/非売品)
の発行を新聞で知って、寄贈の依頼をしたところ、
その翌日、ご両親が小さな図書館を捜して、遠路、
わざわざ本を届けに来てくださいました。
中編小説二編、随筆三編、その本のあとがきには
お父さんのしぼりだすような言葉があります。
「…平成10年9月13日、38歳の青春まっただなかで急逝した
長男の一宏でしたが、その遺品を整理しておりましたところ、
おびただしい小説や随筆、日記帳などが出てきました。
短い人生を急ぐように勤めの傍ら日夜、精根こめて
書き上げたようであります。
正直申し上げて、これほどの作品を書き上げていたとは
思いも致しませんでした。
…自分の手で出版にこぎつけられなかった無念を思う時、
親ばかを承知でこの遺志をなんとかかなえてやりたいと…」
小学6年の時の先生との出会いから一向一揆に興味を抱き、
小遣いをためて歴史本を買って読みふけったという一宏さん、
一向一揆をテーマにした「山の向こうから鬼が来る」の
原稿用紙の表紙には、出版を望む文字が入っていたそうです。
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それから12年後(2010.3.22 12:40)のことでした。
おいくつになられていたでしょうか。
少し年老いたお父さんが一人、
電車に乗って、訪ねて来られました。
たまたま私のことが出ていた新聞記事をご覧になって、
寄贈お礼の封筒を手に、住所を探して来られたのでした。
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私のもとに戻ってきた文書…先日、広げてみると、
そのA4の上方2ヵ所に、
セロテープ跡が残っているのに初めて気づきました。
お家のどこかに貼ってあったのを剝がされたのでしょうか。
その箇所が茶色く変色して際立っていて、、、切ない。
『山の向こうから鬼が来る 荒木一宏遺稿集』
23年ぶりに、図書館から借りて読んでいます。
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