シグナスの図書館の入り口に、ちょっと不思議なモニュメントが置かれているのをご存じでしょうか。四脚のある台の上に数冊の本が積み上げられ、一番上の大きく開かれた左ページには、昔ばなしに出てくるような土を耕す人がいて、右ページにはよく見ると文字が書かれているのです。
― 大切なのは
自然の均衡を
きずつけないこと ― R・カーソン
つくられたのは藤原吉志子さん(東京)。穏やかで、優しそうな方でした。お会いしたのは一度っきり。再度お目にかかってお礼を申し上げたいと思うけれど、2005年夏のシグナス開館の一年後に亡くなられたこと、ずっと後になって知りました。
2004年12月9日の『ひと言・人・こと』にはほんの少ししか触れていませんが、藤原さんと言葉を交わした日のこと、私には忘れることのできない思い出です。
その日は、新館建設の打ち合わせ会議がありました。金沢美大のK教授から、図書館のモニュメントの制作をされることになったという藤原さんの紹介がありました。数々のコンクールに入賞されているという藤原さんは、既に数枚の原案を用意されていらっしゃいました。昔話をモチーフにされたというそれらの原案にはキツネたちがいっぱい、ユーモラスでユニークな作品ができあがりそうでした。
はい、町には狐の昔話もありますがそんなに多いわけでは…と、図書館が出会いの場であること、小さな図書館がレイチェル・カーソンのメッセージを大切にしていること、「センス・オブ・ワンダー」の図書館と呼ばれていることなど、図書館LOVEの一心で、、、今から思えば、よくもまあ素人が恐れもせずに口をはさんだものです。
ところが、藤原さんは「そうでしたか。私も!センス・オブ・ワンダーが大好きなんです。実は、レイチェル・カーソンをモチーフにした作品もあるんですよ。」とにっこり。そうして、2005年3月8日には、現在のモニュメントとほぼ同じ原型の写真が届けられたのでした。
完成した作品のタイトルは、
《タワーリングストーリー・・・そして知識も積みあがる》
藤原さんに選びに選ばれて、積み上げられた本たち…は、
『ALICE IN WONDERLAND』『WORLD ATLAS』『万葉集』『WEBSTER'S DICTIONARY』『DON QUIJOTE』『パパラギ』。そして、脚元には…『THE SENSE OF WONDER』!よく探すと、不思議なモノたちも次々に見つかります。
~・~~・~・~~・~・~~・~
「藤原吉志子は金属を型にとかしこんでつくる作家です。 それを鋳造(ちゅうぞう)というのです。 よく知られた動物や童話を、楽しい意表をつく形でつくる童話作家といえるでしょう。彼女にとって、子どもがよじ登り、大人が腰掛けておしゃべりして、てっぺんがピカピカする、そんなほのぼのとして嬉しくなる彫刻がのどかな邪魔ものとして天下の公道にあることが望ましいのです。」と評される藤原さんの作品は、都市景観の彫刻として全国各地で見ることができるようです。
~・~~・~・~~・~・~~・~
埼玉県春日部市にある「おでかけ」は、童話の中のウサギがフロックコートを着て家から出かけようとしている作品。藤原さんのこんなコメントがありました。
…(前略)さて、意識が地球上の上空を旅するとき、はるかアフリカの国々やボスニアを始めとする旧ユーゴの紛争、クルドやチェチェンやパレスチナの悲劇、アラブの問題、テロ、貧困、病、公害、自然破壊…世界には心の痛む事の多いのが解ります。だから私の作品はいつもそういったことに関心を向きそのようなテーマになってしまうのです。その不幸の多くは国家や民族のエゴイズムとメカニズムによるもので、突然平和な家庭や社会が破壊されてしまったりするのです。
私はウサギに平和を託しました。心躍る出会いの為に、友情の為にさっそうと出かけようとしているウサギです。国家間の歪んだ関係やプライドを越えて、個人という人間同士の付き合いの為に精一杯正装して出かけようとしています。モチーフがウサギなのに人間同士というのもおかしいのですが、様々な文学に登場してくるウサギの社会は、人間そっくりなので、ウサギの形を借りました。(後略)…
~・~・~・~~・~・~~・~・
津幡町の《タワーリングストーリー》のモニュメントの詳細については、現図書館員でもよく知らないかもしれません。多くの方がモニュメントがあることさえ気づくことなく、見過ごされているかもしれません。
どうぞ図書館にでかけて、すばらしいモニュメントをおたのしみください。
藤原さんの声に耳を澄ましてみてください。
あれから17年経った今、ようやくモニュメントの出会いを伝える機会ができました。
このブログを始めたおかげです。