小さな図書館のものがたり

旧津幡町立図書館の2005年以前の記録です

「センス・オブ・ワンダーの図書館」と呼ばれていた旧津幡町立図書館。2001-2005年4月30日までの4年間、そこから発信していた日々の記録「ひと言・人・こと」を別サイトで再現。そこでは言い足りなかった記憶の記録が「小さな図書館のものがたり」です。経緯は初回記事にあります。

ある鍛金作家との出会い

「みかんの図書館」の山代温泉
ある美術館主との出会いを思い出させてくれた。

これまでにいただいたお手紙を開いたり
著書を読んだりして
瞬く間に一週間が過ぎた。

高岡嘉久さん、大正14年8月18日お生まれの97歳。
どうしていらっしゃるでしょうか。
お元気でしょうか。

* * *

一度だけ、お目にかかったことがある。
17年前の秋だった。
秋晴れに誘われて急に思いたって
電車、バスを乗り継いで訪ねたことがある。

駅にあった山代温泉市街マップを手に
桔梗が丘の郵便局で「高岡美術記念館」を教えてもらった。

著書の中の写真そのまま、魅力的な鍛金作家は
アポなしの突然の訪問者をにこにこ迎えてくださって
お家の隣にある美術館へ案内してくださった。
岡本太郎さんも来館されたという私設美術館は
開館20数年を経て時の重みを感じさせ、壁面には
鍛金レリーフの大作がずらり並んでいた。
作家と作品に包まれた至福のひとときだった。

帰り際に、ちょっと重いかもしれないがと、
以前に図書館に寄贈された四冊の本をお土産にいただいた。
ふり返り手を振りながらバス停へ急いだあの日、、、
2005年10月19日(水)の一日は
まるで昨日のことのように目に焼き付いている。

* * *

それにしても、なぜ、ぶしつけにも押しかけたのだろうと
我ながら不思議でならなかった。
その4月に図書館の仕事をやめ、時間はたっぷりあった。
図書館員として大切なことを学ばせていただいたことへの
感謝を申し上げたかったこともある。

でも…
なんだか合点がいかない…

今日、ふっと思いついて
書棚に大切にしまってあった空箱を見ると!

【2005.10.6(図書館にて)、10.19(山代へ)】
のメモと、高岡さんのお手紙があった。

「~日々の御清務ごくろう様に存じます。
打風鈴を作ってみました。余暇にお試し下されば
幸に存じます。打棒、つり糸はお好みの色合いに
合わせて下さい。~」

あ、そうだったのだ。
高岡さんからの小包が新図書館宛に届いたのだった。
肝心なことを私はすっかり忘れてしまっていた。
そのお礼のきもちをどうしても直接伝えたかったのだと、
今更ながら得心したのである。

数年前、友人と近くまで出かけることがあって
車で回ってもらったが、記憶が曖昧で美術館は見つからなかった。
いつかきっとと思いながら延び延びになっている。

* * *

「打風鈴」は、
食堂の横の柱からつり下がっている。

直径11㎝ほどの半円形
内側には鳥の羽を広げたような十字架の形に
糸で12㎝の金属棒が垂れている。

りん、り~~ん~

手書きの解説文を久しぶりに読みなおし
鳴らしては耳を澄ます。
温かい、不思議な響きがなんとも心地よい。

~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

《純銅鍛金打風鈴》  

音は生活のリズムであり一日の始まりである。
銅製打風鈴は四季の温度差によって音に微妙な
変化を感じ楽しめる。(夏は音が緩み冬は締る)
人は音によって危険を感じ安全を認ずる。(打診、打音検査)
風鈴は風任せだが、”打風鈴”は自ら音を試すことができる。
優しい音色は人の気を癒す効果がある。
楽聖カラヤンは最高の音は、銀の輝き(心のときめき)と表現、
中国秦の始皇帝は、打風鈴を愛でたという。
混沌する現代社会の中に在って、一刻の安らぎこそ大切にしたい。
                  
                    作者 / 高岡嘉久

旧津幡町立図書館の記録「ひと言・人・こと」はこちらです。