小さな図書館のものがたり

旧津幡町立図書館の2005年以前の記録です

「センス・オブ・ワンダーの図書館」と呼ばれていた旧津幡町立図書館。2001-2005年4月30日までの4年間、そこから発信していた日々の記録「ひと言・人・こと」を別サイトで再現。そこでは言い足りなかった記憶の記録が「小さな図書館のものがたり」です。経緯は初回記事にあります。

絵本『ぼく』と詩集『ぼくは12歳』

名編集者である松居直さんの絵本編集には、
基本方針が二つあるそうです。

⁂絵本は子どもに読ませる本ではない。大人が子どもに読んでやる本である。
⁂役に立つ、ためになるだけの本は作らない。

もっとも大切なことは読み手と聴き手が”共に居る”こと。
読んでもらうことは、子どもにとって至福の絵本体験なにだと、
「読みきかせ」の意義について語っていらっしゃいました。

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ところで、絵本とは何か?
あらためて考えさせられた絵本があります。

それは、『ぼく』(谷川俊太郎/合田里美/2022.1/岩崎書店

2月12日のETV特集で知り、すぐに図書館にリクエストした本です。
テーマは子どもの自死
編集者、作者、イラストレーターが、
慎重にやりとりを重ねてできあがっていった絵本です。

谷川さんは「こんなに話し合って作る絵本は珍しい。初めて。
新鮮でありがたかった。細かいところまで、二次元で考えれば、
普通の俗世間では子どもの自死はたいへんよくないこと―
そうじゃない別の見方がこの絵本ででてくること

どうにかこの絵本で表現できたらいいなと思っていたから
それをテキストだけで限界があるんです
どうしても
だけど絵があると、そこが伝えられるというのは
すごく絵本のつよみ!!」と語っていらっしゃる。

また、読者に伝えたいメッセージは?

「一般的な読者に対していうことはできない
もし今死にたいと思っている子が
目の前にいて、こっちに話しかけてきたら
なんか言うことはあると思うけど
ひとりひとり全然違う人間関係をもっている
子どもたちに、一般的にメッセージっていうのは
言えないと思いますね。
今、意味偏重の世の中、だれでも、何にでも、
意味を見つけたがる、意味を探したがる
意味よりも大事なものは、
何か存在するってこと、何かあるってこと。
存在っていうことを言葉を介さないで感じとるってことが
すごくだいじなことと思う。

生きている上で、意味づけないでじっと見つめるとか
我慢するとかあるんだけど、
みんなそんなことはしなくなっているんですよ。
意味を見つけたら満足しちゃう。
そうじゃないものを作りたいとは思っていますけど。」

90歳の谷川さんの言葉は深くて、、、

***

『ぼく』を開いていると、
『ぼくは12歳』の岡真史くんと重なります。
47年前の夏の夜、大空に自ら身を投じて命を絶った少年。

まるで『星の王子さま』の王子さまのようだった、
不思議な子だったと、母、百合子さんは書いています。

「私は、今でも息子の夢をよく見ます。夢の中で、息子はいつも、あの長いまつげの下の目で、少しはにかんだように笑っています。ああよかった、まだ生きていたんだ、と私はすごく嬉しくなり、今度は失敗しないぞ、と力一杯彼を抱きしめます。マーすけ、いったいどうしたの?どうして死んじゃったの?何がそんなに辛かったの?パパにもママにも言えなかったの?矢つぎ早に問いかけながら、私は息子を抱きしめます。息子が死んでから、私が一番たまらないのは、母親の抱きしめ方が足りなかったのではないか、と思う時です。…」

『ぼく』は、なぜ?と問い続ける母の涙に寄り添い、
抱きしめてくれる絵本のように思えます。

 

~☆~☆~☆~

ぼくは しんだ


じぶんで しんだ
ひとりで しんだ


こわくなかった
いたくなかった

… 

~☆~☆~☆~

4月の「詩をたのしむ」読書会で、
一頁ずつ、順に読んで、話し合いました。

少年〈ぼく〉のつぶやきに違和感がある
透明感のある絵が美しすぎる
「生」と「死」の境界が見えない
試そうかなと思うぐらい、軽い
死に誘われそう
大丈夫だろうか
なんのための絵本

誰もが危うさを感じました。
出版社も慎重を期したからでしょうか、
「死なないでください」
と呼びかける編集部からの異例のあとがきが付されています。

***

『ぼく』について考えをめぐらしながら
9ヵ月過ぎました。考えさせられる本でした。

図書館では『ぼく』の居場所を考慮する必要がありそうです。
絵本だから【E】コーナーと、機械的、便宜的に、
『ぼくはねんちょうさん』『ぼくはなきむし』『ぼくは…』
といった「ぼく」と隣り合わせにする本ではなさそうです。

どのコーナーが適しているでしょうか。
生きる、いのちを考える、生と死、、、
図書館員の深慮が求められるところです。

(E以外の別置記号が必要な絵本は他にもあるかもしれません)

旧津幡町立図書館の記録「ひと言・人・こと」はこちらです。