小さな図書館のものがたり

旧津幡町立図書館の2005年以前の記録です

「センス・オブ・ワンダーの図書館」と呼ばれていた旧津幡町立図書館。2001-2005年4月30日までの4年間、そこから発信していた日々の記録「ひと言・人・こと」を別サイトで再現。そこでは言い足りなかった記憶の記録が「小さな図書館のものがたり」です。経緯は初回記事にあります。

『沖縄の海人(ウミンチュ)』より

著者を囲む集い「出会いの夕べ」には、町ゆかりの方、県内在住の方を中心に
9年間で32名の方をお迎えした。

記念講演会という大きな講演会ではなくて、気軽でささやかな出会い、
他の図書館からは、年間4回ものイベントの予算額についてよく質問を受けた。
図書購入の予算確保のために、イベントの予算は極小の状態だと知り、
驚かれることがしばしばだった。ゲストの方々のご理解あればこそだった。

著者がその著書について語るという集いは図書館ならではの好企画となり、
大阪、滋賀、岐阜、京都など遠方からのゲストは、別の講演会の日程に便乗させて
いただく形で企画することができた。

こうして、東京に住む酒井敦さんには、お正月の帰省を利用して、
第18回&27回「新春 出会いの夕べ」のゲストとなっていただいた。

一回目は2000年『沖縄の海人(ウミンチュ)』(晶文社/1990)
二回目は2002年「絵本と私~『ガオ』について~」

図書館で借りてきた『沖縄の海人(ウミンチュ)』を20年ぶりに手にして
当時42歳の酒井さんの「出会いの夕べ」での言葉をゆっくり思い出す。

  … … … … …

初めて訪れたのは25歳だった。友人から耳にしたのがきっかけだった。
石垣島の南にある小浜島の岬の海人の村、細崎(くばざき)の人と暮らしに
魅せられた。何度か足を運んで、正味10ヵ月ほど滞在した体験を綴った
ノンフィクションである。                                            

 
時間に追われて呼吸困難になっていた自分。
自然の中で自然のリズムに沿って暮らしている海人の生活。
生きることに自信を持っている島の人たちに触れて、
心も体も解放され、バランスを取り戻すことができた。 
日本であって、日本でない世界。。。

漁に出たりしていると記録していることがつまらなく無意味になって、
写真を撮ることが恥ずかしくなった。

それから急速に、本土の開発の波が押し寄せて、リゾート開発が進み、
土地改良によって土が流れ込み、サンゴ礁が死に、魚はとれなくなっていく。
後継者もいなくなってゆく。生態系も人も涸れてゆく。
夢のような牧歌的な世界は自分の時が最後だったような気がする、と。


 目次 …… ☆ …… ☆ ……☆ …… ☆ ……   

   プロローグ 糸満の海人(ウミンチュ)
   はじめての細崎(くばざき)
   ブジャとの生活
   ぼくは70円で売られたさあ
   セーフの人が来た!
   ジャワ島で出会った女、ミナ
   ブジャの舵とり
   南洋の高瀬貝漁
   かあちゃん、ゴメン!
   テル子おばあと蛸とりおじい
   南洋の花嫁、テル子おばあ
   三線(サンシン)のおじい
   モズクとり
   ヤンディグァーの日に
   月夜のブジャとメリー
   蛸とりおじいの魂(マブイ)
   博打
   山羊汁
   幽霊踊り
   ブジャ、まだ死なん!
   海人の白化粧
   エピローグ 海歩いてるさあ

   …… ☆ …… ☆ ……☆ …… ☆ ……

 

表紙がなんとも強烈だ。
絆創膏で片目のまぶたを持ち上げて辛うじて見開く、サバニの上のブジャ。
島の人たちをとらえた白黒写真が35枚。
海人の秋野イサムさん!の描いた細崎の詳細な絵図もある。

どのエピソードも実に生き生きとしている。
島の人たちの歌声や笑い声、泣き声が波の音とともに聞こえてくるようである。

白化粧をして幽霊踊りをして大喝采を浴びたサカイさんは、舞踏家でもあるらしい。
東京で、今もお元気だろうか。

(2002年8月13日の「ひと言・人・こと」に、ふらり、図書館を訪ねて
くださった酒井さんを見つけました。)

旧津幡町立図書館の記録「ひと言・人・こと」はこちらです。